甲会社が特定の株主であるAのみからその保有する1000株の自己の株式を有償取得するためには、甲会社は、株主総会の特別決議により、取得する株式の数が1000株であること、株式の取得と引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間を定めなければならない(156条1項、160条1項、309条2項2号かっこ書)。株主平等の原則(109条1項)に配慮するためである。その決議において、特別利害関係人であるAは議決権を行使することができない(160条4項本文)。決議の公正を維持するためである。また、Aのみから株式を取得するためには、株主全員の同意を得て、議案追加請求権を排除する旨を定款に定める必要がある(164条1項2項)。
甲会社は、授権決議に基づき、取締役会の決議により、取得する株式の数が1000株である旨などを定め(157条1項2項)、これをAに通知しなければならない(158条1項)。この通知を受けたAによる株式の譲渡しの申込みを受けた甲会社は、申込期日に当該株式を取得する(159条1項2項)。
①公開会社は、②募集株式の引受人がその引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権の数の③当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権の数④に対する割合が2分の1を超える場合には、株主に対し、当該引受人(以下「特定引受人」という。)の名称等を通知又は公告しなければならない(206条の2第1項2項)。そして、一定数の株主から当該引受けに反対する旨の通知を受けた会社は、当該割当て等につき株主総会の承認を受けなければならない(同条4項)。
①甲会社は公開会社である。乙会社の議決権は、既発行分の1000個に本件発行による2000個を加えた3000個であり、③本件発行後の総株主の議決権は甲会社が保有する自己株式(308条2項)の1000個を除いた5000個であり、④①の②に対する割合は2分の1を超えている。よって、乙会社は「特定引受人」に該当する。にもかかわらず、甲会社は、乙会社の名称等を公示しておらず、206条1項2項に違反している。そこで、特定引受人の氏名等の公示義務違反が新株発行無効の訴え(828条1項2号)の無効原因となるかが問題となる。
新株発行無効の訴えの無効原因は、重大な瑕疵がある場合に限られると解する。取引の安全に配慮すべきだからである。
そもそも、特定引受人の名称等の通知又は公告が必要とされている趣旨は、経営を大きく変更することとなる支配権の異動の是非を判断する材料をすべての株主に提供し、支配権の異動に反対する株主には株主総会で反対する機会を提供することにある。そうだとすると、当該公示義務違反は、そのような判断材料のみならず反対する機会をも奪うものであり、重大な瑕疵があるといえる。
以上より、乙会社の名称等の公示義務違反は新株発行無効の訴えの無効原因となるから、無効判決が確定すると、本件発行は、将来に向かって無効となり第三者にもその効力が及ぶ(838条、839条)。
①公開会社である取締役会設置会社において、②総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6箇月前から引き続き有する株主は、③取締役に対し、④株主総会の日の8週間前までに、⑤株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主総会の招集通知に記載し、又は記録することを請求することができる(305条1項)。ただし、⑥当該議案が法令又は定款に違反している場合等は当該請求をすることができない(同条4項)。
①公開会社である丙会社は、取締役会設置会社である(327条1項1号)。Bは、③丙会社の取締役に対し、④株主総会の日(6月29日)の8週間前まで(4月10日)に、⑤株主総会の目的である事項(取取締役5名選任の件)につきBが提出しようとする議案(B及びCを取締役に選任する件)の要領を株主に通知することを請求している。また、⑥に該当する事実は見当たらない。
では、②についてはどうか。Bは、平成31年1月1日から本件総会の日である令和2年6月29日まで引き続き250個の議決権を有している。一方で、同年5月31日における総株主の議決権の数は2万5000個である。よって、Bは、当該請求の日である同年4月10日を基準とすると、総株主の議決権の100分の1以上の議決権を引き続き有しているので、②の要件をみたしている。しかし、同年6月1日に発行された1万株の募集株式を合わせると、総株主の議決権の数は3万5000個となり、株主総会の日である同年6月29日を基準とすると、総株主の議決権の100分の1未満となるので、②の要件をみたしていない。いずれの基準によるべきか。 株主総会の日を基準とすべきである。すなわち、株主が請求した日に②の要件をみたしていたとしても、株主総会の日に②の要件をみたしていないときは、特段の事情がない限り、当該請求は認められないと解する。当該請求の趣旨は株主総会における議案の提案304条)を補強することにある以上、②の要件を株主総会の日まで維持していない場合は議案を補強することができないからである。
以上より、特段の事情はないので、丙会社は、本件議案の要領を招集通知に記載する必要はない。
株主が、代理人によって議決権を行使することを禁止することはできない(310条1項)。しかし、同項は、代理人による議決権の行使に合理的な理由による相当程度の制限を加えることまで禁止するものではない。そこで、定款による本件資格制限の定めは有効かが問題となる。
本件資格制限は、総会屋などによる株主総会のかく乱防止という合理的な理由に基づいており、そのために代理人の資格を株主に限定しているのは相当程度の制限であるから、有効である。
しかし、株主総会のかく乱のおそれがなく、当該制限により議決権行使の機会を事実上奪うことになる場合には、当該定款の定めの効力は及ばないと解する。本問では、職員Dが株主総会をかく乱するおそれはないし、Dの代理を否定すると法人株主であるY県の議決権行使の機会を奪うことになる。
よって、本件資格制限はDに及ばないから、丙会社は、Dの出席を拒絶することはできない。
※上記解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。