平成25年 公認会計士試験 論文式試験解答 企業法

平成25年 公認会計士試験 論文式試験解答 企業法

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企業法

第1問

問1

 甲会社は種類株式発行会社でなく、定款に株式の譲渡制限を定めているから、非公開会社である(2条5号参照)。そして、株主Bが、非公開会社の新株発行の無効の訴えの提訴期間内(株式発行の効力が生じた日から1年以内)に訴えを提起しているので、その訴えは適法である(828条1項2号かっこ書・2項2号)。そして、非公開会社が第三者割当てで募集事項を決定するには株主総会の特別決議によらなければならない(199条2項、309条2項5号)が、甲会社は株主総会を開催しなで募集株式を発行している。そこで、非公開会社が株主総会の決議を欠いたまました募集株式の発行が新株発行の無効原因となるかが、明文規定がないことから問題となる。

 たしかに、株式の発行の効力が生じると多数の者が利害関係を有するので、株式取引の安全を考慮して無効原因は重大な瑕疵に限定すべきである。しかし、非公開会社では株主に募集事項の通知等がされないから、株主総会の決議を欠くと差止め(210条)の機会を奪うことになる。また、株主総会の特別決議が必要とされているのは、持株比率維持という株主の利益が重視されているからである。したがって、株主総会の決議を欠くことは重大な瑕疵であって、無効原因になると考える。

 以上から、本件募集株式発行には無効原因があるからBの無効の主張は認められる。

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問2

 ①について
 取締役会設置会社が発行する譲渡制限株式の譲渡には取締役会の承認が必要である(139条1項かっこ書)が、本件株式譲渡はその承認が得られていない。そこで、取締役会の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡の効力が、明文規定がないことから問題となる。
 取締役会の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡の効力は、会社との関係では無効だが当事者間では有効と考える。譲渡制限の目的は会社にとって好ましくない者が株主として会社経営に参画することを防止することにあり、会社との関係で無効と考えればその目的は達成できるし、取得者からも承認の請求ができるということ(137条)は、当事者間では譲渡が有効であることを前提としているからである。よって、本件株式譲渡の効力は、甲会社との関係では無効だが、AとFとの関係では有効である。

 ②について
 取締役会の承認を得ていない株式取得者は名義書換を請求できない(134条2号)。したがって、Fが株券発行会社でない甲会社に対して権利を行使するには、Aと共同して譲渡制限株式を取得したことについての承認を請求して承認が得られた後か(137条1項・2項)、その請求と同時に、名義書換を請求しなければならない(134条2号、133条2項)。

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第2問

問1

 株式会社が各取締役に報酬等としての新株予約権を付与するには、定款に定めるか株主総会で決定することが必要である(361条1項)。この規制の趣旨は、本来、報酬等の決定は取締役の業務執行としての性質を有するところ、その決定を取締役または取締役会に委ねるとその額等を過大なものとする「お手盛り」の危険が生じるため、報酬等を定款に定めるか株主総会で決定してその危険を防止することにある。

 そして、ストック・オプションとしての新株予約権の付与も「報酬等」(361条1項)に該当する。ストック・オプションも金銭による報酬と同じくお手盛りの弊害があるので、職務執行の対価というべきだからである。したがって、乙会社が定款の定めを変更することなく各取締役にストック・オプションとしての新株予約権を付与するには、株主総会の決議によらなければならない。
 ストック・オプションは、発行時に公正な価額を算定できるし金銭でもない。よって、乙会社の株主総会では「報酬等のうち額が確定しているもの」(361条1項1号)、および「報酬等のうち金銭でないもの」(同3号)として、その確定額およびその具体的な内容を定めなければならない。そして、この株主総会において、取締役は、これらを相当とする理由を説明しなければならない(同2項)。

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問2

 乙会社は退任取締役Aに退職慰労金を支給しようとしている。この退職慰労金も「報酬等」として361条1項の規制を受けるか。
 退職しない取締役が自己の退職の際に高額支給を期待して過大な額とするお手盛りの危険がないとはいえない。また、退職慰労金は、在職中の特別の功労に対する報償としての性質のほか、報酬の後払いとしての性質も有するので、職執執行の対価といえる。よって、退職慰労金も「報酬等」として361条の規制を受けると考える。

 このように退職慰労金も「報酬等」である以上、これにつき乙会社の株主総会で決議している点は適法であるが、その金額等の決定を取締役会に一任している点はどうか。
 無条件で取締役会に一任する決議は361条のお手盛り防止という趣旨に違反し、無効といわざるをえない。しかし、①会社内の支給基準が確立されており、②それを株主が推知できる状況にある場合には、その金額、支給時期及び支給方法を取締役会に一任する旨の決議は、361条に反することなく有効と考える。このような場合に限り、お手盛りの危険は除去できると考えられるからである。

 本問では、退職慰労金支給規程に従って決定されるから①をみたすし、当該規定は本店に備え置かれているから、②もみたす。よって、本件一任決議は有効である。

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上記解答について

※上記解答は独自に作成されたものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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