甲会社は本件土地をその成立を条件として譲り受けることを約しているから、これは財産引受け(28条2号)に該当する。よって、甲会社が成立後に本件土地を適法に取得するには、その成立前に本件土地及びその価額2000万円並びにAの氏名を定款に記載または記録したうで、原則として、裁判所に検査役の選任の申立てをして、本件土地につき検査役の調査を受ける必要がある(33条1項)。しかし、BはAの要請に応えるために本件土地の取得につき検査役の調査を回避したいと考えており、会社法もこのような要請に応えるため、検査役の調査を要しない例外を認めている(33条10項各号)。
まず、1号の本件土地について定款に記載または記録された価額の総額が500万円を超えなない場合である。しかし、定款には2000万円が記載または記録されているから、同号には該当しない。また、有価証券に適用される2号は、本件土地には適用できない。
そこで、3号の本件土地につき定款に記載または記録された価額が相当であることについて弁護士等の証明及び不動産鑑定士の鑑定評価を受ける必要がある。
そして、設立時取締役であるBは、その選任後遅滞なく、弁護士等の証明が相当であることを調査しなければならない(46条1項3号)。
甲会社の成立の時における本件土地の価額は1000万円を超えるものではなく、これは本件土地について定款に記載または記録された価額である2000万円に著しく不足している。よって、原則として、甲会社は、発起人であるA・B、設立時取締役であるB及び証明者に対して、連帯してその不足額を支払う義務の履行を求めることができる(52条1項)。ただし、A、B及び証明者は、免責事由に該当すれば当該義務を免れる。もっとも、Aは本件土地の譲渡人であるから無過失責任を負い、当該義務を免れない(52条2項柱書かっこ書)。また、Bは、本件土地について検査役の調査を受けていない(同条2項1号)し、本件土地を倍以上の価額で取得し、それについて調査をした形跡もないことから、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明することはできない(同項2号)から、当該義務を免れない。実態価額と証明価額には倍以上の開きがあるから、証明者も当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明することはできない(同条3項)から、当該義務を免れない。
発起人及び設立時取締役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、これによって生じた損害を連帯して賠償する責任を負う(53条1項、54条)。Aは発起人として、Bは発起人及び設立時取締役として、その設立の事務、設立の調査等を慎重に実施しなかったことにより適正価額の倍以上の本件土地を取得させて甲会社に損害を被らせている。よって、甲会社は、A及びBに対して、当該損害を連帯して賠償するよう請求することができる。
取締役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、正当な理由がある場合を除き、当該事項について必要な説明をしなければならない(314条)。しかし、Aは、本件議案につき、株主Bから業績改善についての説明を求められたにもかかわらず、正当な理由なく一切の説明を拒否しており、314条の説明義務に違反している。したがって、その後に成立した本件議案を承認する株主総会の決議は決議方法の314条違反という瑕疵を帯び、決議取消事由(831条1項1号)が存在する。また、Cは「株主」(831条1項柱書)であるから、当該株主総会を欠席していても決議取消しの訴えを提起する資格がある。そして、決議取消しの訴えの提訴期間は決議の日から3箇月以内(831条1項)であるところ、Cが本件決議の効力を争おうとしている8月上旬は決議の日である6月末から3箇月以内であるから、提訴期間も経過していない。
ただし、決議の方法が法令に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、その請求を棄却することができる(831条2項)。取締役による説明は株主が議決権を行使する判断材料であって、説明を求める権利は株主総会の審議を活性化させるための重要な権利であることから、Aが本件議案につき一切の説明を拒否したことは「その違反する事実が重大でない」とはいえなない。また、Aの説明次第では業績回復の見込みに失望した多くの株主が本件議案に反対し、決議が否決された可能性もあるため、「決議に影響を及ぼさない」とはいえない。よって、裁判所は、Cの請求を棄却することはできない。
以上より、Cは、決議方法が法令に違反していることを根拠に、裁判所に決議取消しを請求することができ、この請求は裁判所によって認容される。
本件の招集通知は株主の一部に対して漏れているので、その後に成立した決議は招集手続の299条違反という瑕疵を帯び、決議取消事由(831条1項1号)が存在する。しかし、訴訟を提起しようとしている11月の時点で決議の日から3箇月を経過しているから、Dは、決議取消しの訴えは提起できない。また、決議を行ったという事実は存在している(830条1項)。しかし、招集手続の瑕疵がいかに著しくても3箇月が経過すると決議の効力を一切争えなくなるというのは、不当である。そこで、提訴期間の経過による瑕疵の治癒を認めることが不当と評価できるほどに招集手続の瑕疵が著しい場合は、法的には決議は存在しないと評価し、誰でも、いつでも、どのような方法によっても、決議の不存在を主張できると考える。
本件でも議決権を行使できる株主の総議決権数の7割を保有する株主に対する招集通知が漏れていて瑕疵が著しいから、Dは、決議不存在確認の訴えを提起できると考える。
※上記解答は独自に作成されたものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。