平成29年 公認会計士試験 論文式試験解答 企業法

平成29年 公認会計士試験 論文式試験解答 企業法

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 なお、この解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものになります。

企業法

第1問

問1

 本件総会決議が行われた時点で株主名簿に記載されていたBの持株数は40株であり、Bはこの40株分に係る40万円の配当金を受領している。一方で、BがCから取得した30株については株主名簿に記載されていない。よって、70株を保有することを理由とする、Bの甲会社に対する30株分に係る30万円の配当金支払請求は認められないのが原則である(130条2項)。しかし、Bが適法に名義書換を請求したにもかかわらず(133条2項)、正当な理由なく故意にこれを拒んでいる甲会社は、名義書換の不当拒絶をしているといえる。
 そこで、名義書換の不当拒絶があった場合でも、Bの請求が認められないという原則を維持すべきか、維持すべきでないとしても、それをどのように正当化するかが問題となる。

 株式取得者が株主名簿の名義書換を受けない限り株式の取得を会社に対抗できない(130条)のは、集団的法律関係を画一的に処理するという会社の便宜を図ったにすぎない。そうだとすると、会社が名義書換を不当に拒絶しておきながら、その不利益を株式取得者に転嫁することは信義則(民法1条2項)に反する。よって、会社が名義書換を不当拒絶した場合には、株式取得者は、会社に対し、名義書換なしに株主であることを主張できると解する。

 本問では、甲会社は名義書換の不当拒絶をしているから、Bは、甲会社に対して、名義書換を受けていなくても株主であることを主張できる。よって、Bの甲会社に対する30万円の配当金支払請求は認められる。

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問2

 甲会社が行った本件贈与は120条1項が禁止する利益の供与といえるか。
 同項は、①株式会社が、②何人に対して、③株主の権利の行使に関し、④当該株式会社又はその子会社の計算において、⑤財産上の利益の供与をすること、を要件とする。

 本問では、①甲会社が、②Bに、④甲会社の計算において、⑤200万円を贈与している。では、③株主の権利の行使に関しといえるか。「株主の権利の行使に関し」とは、株主の権利の行使に影響を与える意図でという意味である。そうすると、株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は「株主の権利の行使」とはいえないから、会社が株式譲渡の対価として何人かに利益を供与しても当然には120条1項が禁止する利益の供与とはいえない。しかし会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を供与する行為は株主の権利の行使に影響を与える意図があり、「株主の権利の行使に関し」といえる。

 本件贈与は、攻撃的な態度をとるBを甲会社から排除してBが議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で行われているから、「株主の権利の行使に関し」てなされているといえる。よって、本件贈与は、120条1項が禁ずる利益の供与に該当する。

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第2問

問1

 Aらが負うことが考えられる損害賠償責任の根拠規定は、423条1項である。その要件は、①役員等が、②故意又は過失によって任務を懈怠し、③この任務懈怠と会社に生じた損害との間に因果関係があること、である。Aらはこの要件をみたしているか。

 ①取締役であるAらは「役員等」である。では、②故意又は過失による任務懈怠はどうか。
 乙会社は公開会社であるから取締役会設置会社である(327条1項1号)。そして、大会社である乙会社の取締役会は、丙会社などの子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制を整備する義務を負う(362条5項)。この体制には、丙会社などの子会社の取締役の職務の執行に係る事項の乙会社への報告に関する事項及び丙会社などの子会社の損失の危険の管理に関する体制が含まれている(施行規則100条11項5号イロ)。ところが、Aらはそのような体制の整備について一切協議することなく丙会社の代表取締役Dに丙会社の経営を任せきりにし、各自で必要な対応をとることもしていないので、362条5項及び同条2項2号による監視義務に違反しており、故意による任務懈怠が認められる。また、③乙会社の5億円の損害は、この任務懈怠によって乙会社が丙会社の業務執行状況を把握できないことに乗じたDによる本件取引によって生じた丙会社株式の評価損であるから、任務懈怠と損害に相当因果関係が認められる。
 よって、Aらは、乙会社に対し、連帯して、423条1項の損害賠償責任を負う(430条)。

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問2

 Eは丙会社の最終完全親会社である乙会社の株主なので、EがDに損害賠償責任を追及する方法としては特定責任追及の訴え(847条の3)の提起が考えられる。その要件は①公開会社では6か月前から引き続き、最終完全親会社等の総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主又は最終完全親会社の発行済株式の100分の1以上の数の株式を有する株主が訴えの提起を請求すること(847条の3第1項)、②責任原因事実が生じた日において最終完全親会社等及びその完全子会社等における当該株式会社の株式の帳簿価額が最終完全親会社等の総資産額の5分の1を超えること(同条4項)、③最終完全親会社等に損害が生じていること(同条1項2号)である。

 乙会社は公開会社かつ最終完全親会社であり、Eは本件取引の2年前から引き続き総株主の議決権の100分の3の議決権を有しているから、①をみたす。本件取引の日の丙会社の株式の帳簿価額が10億円であるのに対して乙会社の総資産額は30億円であるから、②をみたす。
 乙会社には丙会社株式について5億円の評価損が生じているから、③をみたす。
 以上より、Eは、丙会社が提訴請求に応じない場合(847条の3第7項)には、特定責任追及の訴えを提起できる。

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上記解答について

※上記解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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