監査の計画と実施の段階では、見積りの要素の増大により重要な虚偽表示のリスク(固有リスク、統制リスク)が高まる。これは特別な検討を必要とするリスクである。そこでまず重要な会計上の見積りが漏れなく適切に財務諸表に反映していることを確かめる。そのため経営者に質問を行ったり、訴訟、賠償請求などの有無を調べたりする。次に見積りの合理性を確かめるために過年度の見積りと実績との比較なども必要となる。見積りについて適切な上位者による査閲や承認の手続きが行われているかどうかを確かめることも必要である。場合によっては監査人自身が独自に見積りを行う必要も出てくる。決算日後の取引および事象を検討し、確定額等と差異の内容を検討する。いずれの局面においても、専門家の利用を検討する必要がある。
監査意見表明の段階では、意見表明に先立って適切な審査を受け、判断の相違を解決した上で、見積りが合理的でないと判断した場合には、重要性に応じて限定付適正意見または不適正意見を表明する。会計士独自の見積りを実施できないような場合には、重要性が高ければ意見不表明となる。見積りの基礎になる仮定に関する経営者の見解について経営者による確認書を入手すべきだが、これを拒否した場合も重要性によっては意見不表明を検討する。
求められる監査体制としては、職業倫理と、監査に関する品質管理基準に則り、適切な知識、能力、技術、経験を備えた監査実施者を確保する。専門家の利用に当たって監査事務所内外の適切な者から見解を得るため、あるいは監査実施者間または監査実施責任者と審査担当者との判断の相違を解決するための方針や手続きなどを定め、それが遵守されていることを確かめなければならない。監査業務の審査や品質管理システムの監視の体制も必要がある。
この会社は業績不振を一気に回復しようとしている。このことは事業上のリスクを高め、組織ぐるみの経営者不正の可能性を高めている。役職者には業績連動型の報酬制度が導入されており、高株価維持のための粉飾など広く財務諸表全体に関係する重要な虚偽表示が生じる可能性が高い。したがって、職業的懐疑心をより強めるとともに、監査チームには知識、技術、能力の高い担当者を選抜する、人数を増やす、割り当てる監査時間や日数を増加させるといった対処が必要となる。また新経営陣は、社長と彼の元部下で占められているため、役員相互間のチェック機能が失われ、統制環境も脆弱化しがちである。内部統制を無効にする経営者の対応について十分な注意が必要である。より証明力の高い監査証拠を入手するための監査手続きを実施する、試査の範囲を広げる、分析的手続きを拡張する、監査手続をより決算日に近い日ないし決算日現在に実施するなどの必要がある。社内監査役が経営者と癒着している可能性も高い一方、社外監査役はある程度の独立性を保っていることが推測される。社外監査役とのコミュニケーションをより密接にする必要がある。従業員にも厳しい販売ノルマが課されており、非現実的な目標をたてていることも考えられ、従業員不正のリスクも高い。予告なしに事業所を往査する、不正が生ずる可能性が高い部門の担当者に対し、直接質問をするなどの対処も必要になる。従来から懇意にしていた得意先への信用販売がほとんどであるところから、得意先と共謀した架空売上なども生じやすい。分析的手続を拡張したり、取引条件を確認する、期末前後の多額な取引については金額の裏づけ調査を行う、場合によっては監査人自らが得意先と直接の連絡をとるなど多方面からの情報を求める必要がある。
発見リスクを高くしてもよい場合には、監査要点に適合した分析的手続きのみを実施することもできる。ただしこの場合には、他の手続きを併用する場合に比較して、相当に精度が高い推定値を算出しなければならない。発見リスクの程度を低く抑えることが必要な場合には、分析的手続の他に、分析的手続以外の実証手続(詳細テスト)を実施しなければならない。
・推計値の算出に利用するデータの入手が容易であり推定値を算出できる場合は、分析的手続が効率的であるが、データの入手が容易でない場合には、分析的手続きの実施が効率的でないことが多いことに留意する。
・実地たな卸に先立って、会社のたな卸計画を検討し、もし不備があれば会会社に改善を求める。
・実地たな卸しが、たな卸し計画に定めたたな卸し手続きに準拠して行われていることを、担当者への質問などによって確かめる。
・監査人自ら抜取り検査を行い、これを監査調書に記入し、後にたな卸し表への転記の妥当性を検証する際に使用する。
評価の妥当性を判断するに際し、仕掛品の進捗度は非常に重要なものであるが、これを立会によって確かめることは極めて困難である場合が多い。このような場合には、少なくとも監査人は工場現場に訪問して、立会によってその実在性を確かめなければなない。進捗度についても評価の妥当性、適正性をある程度判断するため、監査人が直接、現場の技術者等に質問等を行う必要があると考えられる。
監査要点 保証債務の発生の可能性が高く損失金額の合理的な見積りが可能な場合には、引当金処理となり、その見積りや評価の妥当性、網羅性、表示の妥当性が監査要点となる。可能性が中程度であったり、金額が見積りできない場合、注記された金額の妥当性、網羅性、表示の妥当性が監査要点となる。
除外事項とそれに関連して記載すべき事項 必要な監査手続を実施し合理的基礎を得た上で限定付適正意見を表明する場合には、不適切な事項およびそれが財務諸表に与えている影響、不適正意見を表明する場合には、その旨、および理由を記載する。重要な監査手続を実施できなかったことにより限定付適正意見を表明する場合では、実施できなかった監査手続、および当該事実が影響する事項、意見不表明の場合には、その旨、および理由を記載する。
※上記解答は独自に作成されたものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。