本問では、代表取締役Aが甲会社を代表して子会社である乙会社に貸し付けた1億円の回収が、乙会社の倒産により不能となり、甲会社は1億円の損害を被っている。
そこで、Aは、甲会社に対して、会社法423条1項の任務懈怠責任を負うかが問題となる。
同項は、①取締役が任務を懈怠したこと、②①につき過失があったこと、③会社が損害を被ったこと、④①と③の間に因果関係があることを、要件としている。
本問では、①Aが甲会社を代表して乙会社に貸し付けた1億円が、乙会社の倒産によって回収不能となり、その結果として、③乙会社が1億円の損害を被っていることから、④①と③の間には因果関係がある。では、②任務懈怠につき過失があったといえるか。すなわち、善管注意義務(同法330条、民法644条)に違反しているかが問題となる。
Aがその融資につき判断し取締役会に提案したときには、乙会社の財務状況はかなり悪化しており、甲会社による融資も効果がない状態であったにもかかわらず、Aは、乙会社の財務状況を十分に調査しなかったことから、上記の事実を認識することなく融資をしており、この点に善管注意義務違反が認められる。
以上から、同法423条1項により、Aは、甲会社に対して、1億円の損害を賠償する責任を負う。
Xの主張は、本件土地の譲渡が取締役会の決議を要する「重要な財産の処分」(会社法362条4項1号)であるにもかかわらず、Aが、取締役会の決議を経ていないことを理由としているものと思われる。そこで、本件土地の譲渡が「重要な財産の処分」に該当するかが問題となるが、当該財産の価額、会社の総資産に占める割合等の事情を総合的に考慮して判断するほかない。本件土地の譲渡価額は総資産の10分の1であり、主力工場の建設予定地であったというのであるから、「重要な財産の処分」に該当する。
では、取締役会の決議を経ない「重要な財産の処分」の効力はどうであろうか。この点については明文規定がないから、取締役会決議を要求することにより守ろうとした会社の利益と取引の安全を比較衡量して妥当な結論を導くべきである。
この点、「重要」かどうかは相対的な概念であり、決議を要する取引の範囲が明確ではないし、取締役会決議という内部手続の有無によって取引の効力が左右されると取引の安全を害する。そこで、取締役会の決議は法律上の制限であるが、代表権に内部的制限を加えた規定である同法349条5項を類推適用し、相手方が善意かつ無重過失であれば有効と考える。
以上から、Xは悪意であり、本件土地の譲渡は無効となるため、甲会社による当該明渡請求は認められる。
本件株式交換により、丁会社の完全親会社となる丙会社は、その株主構成が変化して組織に重大な影響を受けるし、丙会社の株主は、持株比率が変動したり、丁会社の資産状態によって株式の経済的価値が下落したりするといった影響を受ける。
そこで、丙会社が株式交換契約につき株主総会の承認決議(会社法795条1項)を経た場合であっても、「反対株主」は、丙会社に対し、その保有する株式を、株式交換によるシナジーを考慮した「公正な価格」で買い取ること請求できる(同法797条1項)こととして、少数派株主に投下資本の回収の機会を保障している。
株主が丙会社に株式買取請求をする手続としては、まず、株式交換契約を承認する株主総会に先立って、当該承認に反対である旨を丙会社に通知し、かつ、株主総会において反対しなければならない(同法797条2項1号イ)。これによって「反対株主」とされた株主は、株式買取請求ができるが、そのためには、効力発生日20日前から効力発生日の前日までの間に、その請求に係る株式の数を明らかにしなければならない(同5項)。
問1で述べたように、原則として、丙会社においては、株式交換契約につき株主総会の承認決議(会社法795条1項)を経なければならない。
しかし、丙会社において当該承認決議を要しない例外として、簡易株式交換と略式株式交換とがある(同法796条3項・1項)。
丙会社において、簡易株式交換が可能となる要件は、株式交換に際し丙会社が交付する丙会社株式の数に1株あたりの純資産額を乗じて得た額が丙会社の純資産額の5分の1(定款でそれを下回る割合を定めることは可能。)を超えないことである。このような場合は、株主に与える影響(持株比率・株式経済的価値の低下)が軽微であり、株主総会の承認によって株主を保護する必要に乏しいからである。
なお、丙会社は公開会社なので、簡易株式交換を禁止する規定の一部は適用されない(同法796条3項ただし書・1項ただし書)。
丙会社において、略式株式交換が可能となる要件は、丁会社が丙会社の総株主の議決権の10分の9(定款でそれを上回る割合を定めることは可能。)以上を有する「特別支配会社」(同法468条1項)であるときである。このように丁会社にほぼ完全に支配されている丙会社において株式交換契約を承認する株主総会を開催しても、承認決議の成立は確実であり、あえて時間と費用をかけて株主総会を開催させる意味に乏しいからである。
なお、丙会社は公開会社なので、略式株式交換を禁止する規定は適用されない(同法796条1項ただし書)。
※上記解答は独自に作成されたものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。