平成30年 公認会計士試験 論文式試験解答 民法

平成30年 公認会計士試験 論文式試験解答 民法

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 なお、この解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものになります。

民 法

第5問

問1
 BのCに対する丙動産の返還請求は、Bの抵当権に基づいていると考えられる。したがって、この請求が認められるためには、Bの抵当権の効力が丙動産に及んでいることが必要である。しかし、丙動産は、取り外しが可能なので甲土地から独立しているが、甲土地に従属してその効用を助けるから、従物である。従物にも抵当権の効力が及ぶだろうか。抵当権の効力はその目的物に付加して一体となっている物に及ぶ(370条本文)。そこで、従物が「付加一体物」に含まれるかが問題となる。
 そもそも、370条は、抵当権が抵当不動産の交換価値を把握する価値権であることから、抵当不動産と物理的又は経済的に一体の関係にある物に抵当権の効力を及ぼすことによって、抵当権者を保護する趣旨である。とするならば、「付加一体物」とは、抵当不動産と物理的な一体性を有する付合物のみならず、主物である抵当不動産の価値を高める従物も、抵当不動産と経済的に一体の関係にあるから、「付加一体物」に含まれると解する。
 よって、甲土地の従物である丙動産も「付加一体物」である以上、Bの抵当権の効力が及んでいる。
 しかし、丙動産は、造園業者Cによって売却され、甲土地から搬出されている。そこで、丙動産は「付加一体物」ではなくなり、Bの抵当権の効力が及ばなくなるかが問題となる。
 抵当権は抵当不動産とその付加一体物の交換価値を全体として把握する価値権であるから、従物が分離されたことによって直ちに抵当権の効力が及ばなくなると解すべきではない。しかし、抵当権は登記を対抗要件とする権利(177条)であるから、分離物が抵当不動産上に存在し、抵当不動産の効用を高める場所的な関係が維持されている場合には抵当不動産との経済的な一体性も維持されており、その限りでは抵当不動産の登記による公示力が及んでいるから、抵当権の効力を第三者に対抗することができると解する。
 本問では、Cが丙動産を甲土地から搬出して買い受けているから、甲土地の登記による公示は及ばなくなっており、Cは177条の「第三者」であるから、悪意でも丙動産の所有権を確定的に取得する。
 以上より、Bは、Cに対して、丙動産を甲土地に戻すよう請求することはできない。

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問2
 本問では甲土地上に丁建物の約定利用権が設定されていない。よって、EのAに対する請求が認められるためは、法定地上権(388条)が成立していないことが必要である。
 388条の文言によると、法定地上権は、①抵当権設定時に土地上に建物が存在していることと、②抵当権設定時の土地と建物が同一人の所有に属していることが要件とされている。本問では、1番抵当権設定時に、Aが所有する甲土地と乙建物が存在し、双方に抵当権(共同抵当権)が設定されているため、①②の要件をみたす。しかし、その後にAが乙建物を取り壊して丁建物を再築している。そこで、共同抵当権の目的物である旧建物が取り壊されて新建物が再築された場合に、新建物のための法定地上権が成立するかが問題となる。
 共同抵当権者は土地及び建物の全体の担保価値を把握しているから、抵当建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが当事者の意思である。とすれば、抵当権が設定されていない新建物のために法定地上権の成立を認めると、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのにその担保価値が法定地上権の価額相当分だけ減少し、当事者の意思に反する。したがって、新建物に抵当権が設定されて旧建物が取り壊される以前と同一の共同抵当の関係が生じた等の特段の事情がない限り、1番抵当権を基準とし、法定地上権は成立しないと考える。
 本問では、Bに対して丁建物に抵当権が設定されたなどの特段の事情はないから、法定地上権は成立しない。よって、Eは、Aに対して、丁建物の収去・甲土地の明渡しを請求することができる。
 本問でも、1番抵当権を基準とすると問1で述べたように法定地上権の成立は否定される。しかし、問1と違って2番抵当権の実行時には1番抵当権は消滅しているので、2番抵当権を基準とすると法定地上権は成立しないことになる。そこで、いずれを基準とすべきかが問題となる。
 2番抵当権者は、1番抵当権が弁済等によって消滅することを予測したうえ、その場合における順位上昇の利益と法定地上権の成立の不利益を考慮して担保価値を把握すべきであり、法定地上権の成立を認めても2番抵当権者に不測の損害を与えることはない。したがって、2番抵当権を基準とすべきであり、法定地上権は成立すると考える。
 本問では、2番抵当権を基準とすると、①②その他の要件をみたしている。よって、Fは、Aに対して、丁建物の収去・甲土地の明渡しを請求することはできない。

第6問

問1
 CにはAの代理人として本件定期預金を担保に金銭を借り入れる権限はないから、銀行Bからの借入れは無権代理であり、その効果はAに帰属しないのが原則である(113条)。したがって、BはAに対して、貸金債権を取得しておらず、相殺適状(505条1項本文)にはないから、これと本件定期預金を相殺することはできないのが原則である。
 しかし、これでは将来本件定期預金と貸付債権を相殺するという見込みでCを代理人と信じたBの保護に欠ける。そこで、このようなBの相殺への期待を保護する法的構成が問題となる。
 たしかに、無権代理である以上、表見代理の規定によって保護すべきともいえる。しかし、これによると、本人の帰責性が要件とされるから、相殺への期待の保護としては不十分である。
 では、478条の適用はどうか。たしかに、478条は「弁済」という既存の義務の履行行為を保護する規定であるのに対し、本件の定期預金への担保の設定から相殺するという一連の行為は「弁済」ではないから478条を直接適用することはできない。しかし、定期預金への担保の設定、貸付け、相殺予約を経てから相殺するという一連の行為は、実質的には定期預金の満期前解約による払戻しである「弁済」と同視することができる。そこで、債権の準占有者に対する弁済として478条を類推適用すべきと考える。
 では、478条の善意・無過失の要件の有無は、いかなる時点で判断すべきだろうか。
 たしかに、弁済と同視すべきは相殺であることからすれば、善意・無過失の有無は相殺の時点で判断すべきともいえる。しかし、銀行は、貸付金の返済がないときは定期預金と相殺できると期待して貸し付けているのであるから、貸付けの時点における相殺への期待を保護すべきである。したがって、善意・無過失の有無は貸付けの時点で判断すべきと考える。
 以上から、BがCへの貸付けの時点で善意・無過失の場合には、478条の類推適用により、Bによる本件定期預金債権と貸付債権の相殺は認められる。

問2
 差し押さえられた金銭債権のうち誤振込金相当額が自己に帰属するというAの主張が認められるには、Fと銀行Gとの間に預金契約が成立し、Fが誤振込相当額に係る普通預金債権を取得していることが必要である。しかし、銀行GのFの口座に振り込まれた金銭はBの誤った振込依頼によるものであり、振込人Bと受取人Fの間には何の取引上の関係もない。そこで、振込人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係(原因関係)がない場合にも、受取人と振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立するかが問題となる。
 たしかに、振込金について預金債権を成立させる旨の振込みにおける受取人と振込先の銀行との事前の合意は、受取人との間で原因関係のあるものの振込依頼に基づき振込依頼を受けた銀行から振り込まれてきた振込金に限られると解するのが、社会通念、当事者の合理的意思に合致する。また、錯誤により無関係な受取人の口座に誤振込をしてしまった振込依頼人と、その結果棚ぼた式にその口座に入金された受取人や当該金銭債権の差押債権者を比較すると、前者の方が保護に値するともいえる。
 しかし、原因債権の有効性によって受取人の預金債権の効力が左右されると、銀行の振込事務も原因債権の有効性によって左右されることになるが、銀行にとってはその判断は困難であるから、銀行にその判断のリスクを負わせるべきではない。また、銀行が原因関係を調査しなければならないとすると、コストや時間がかかり迅速な決済手段としての振込みがその機能を失うことになる。
 そこで、振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に原因関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人は銀行に対して当該金額相当の普通預金債権を取得すると解する。
 本問では、BとFとの間に原因関係はないが、Fと銀行Gとの間に誤振込相当額の預金契約が成立し、Fは銀行Gに対して当該金額相当の普通預金債権を取得する。よって、Aの主張は認められない。

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上記解答について

※上記解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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