平成30年 公認会計士 試験 論文式試験解答

平成30年 公認会計士試験 論文式試験解答 監査論

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 なお、この解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものになります。

監査論

第1問

問題1

 経営者は、財務諸表の作成に当たって継続企業の前提が成立しているかどうかを判断し、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況について、適切な開示を行わなければならない。したがって、継続企業の前提に重要な疑義が認められる場合においても、監査人の責任は、企業の事業継続能力そのものを認定し、企業の存続を保証することにはなく、適切な開示が行われているか否かの判断、すなわち、会計処理や開示の適正性に関する意見表明の枠組みの中で対応することにある。具体的には、経営者は継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められると判断した場合には,継続企業の前提に関する注記を行う責任を有している。一方監査人は、経営者の継続企業の前提についての評価、注記の適切性について意見表明する責任を有している。このように、財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する監査人の責任との区別を二重責任の原則という。

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問題2

 リスク・アプローチに基づく監査の実施においては、監査リスクを合理的に低い水準に抑えることが求められる。すなわち、監査人の権限や監査時間等には制約もある中で、財務諸表の利用者の判断を誤らせることになるような重要な虚偽の表示を看過するリスクを合理的な水準に抑えることが求められるのである。監査人は監査計画の段階で継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況の有無について検討することによって、監査の初期の段階において企業の財政状態および経営成績に重要な影響を与えている事象を確かめ、それらに対応する期中から期末にかけての監査手続の実施を計画できる。これによって監査の効果的かつ効率的な実施が可能となるからである。

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問題3

 実施目的:継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象や状況の有無、合理的な期間(少なくとも決算日から1年間)について経営者が行った評価、当該事象等を解消あるいは大幅に改善させるための経営者の対応及び経営計画の実行可能性について検討するため。

 具体的な監査手続: 本問における主力金融機関による債務免除について、A社の経営者に質問するとともに、その詳細に関する金融機関との取決めに関して具体的な資料があれば、当該資料の提供を要請し、当該資料を閲覧する。

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問題4
問1

 意見表明に関する監査人の責任は、自らの意見を通しての保証の枠組みのなかで果たされるものであり、その枠組みから外れる事項は監査人の意見とは明確に区別することが必要である。
 追記情報は、財務諸表の表示に関して適正であると判断し、なおもその判断に関して説明を付す事項や財務諸表の記載について強調する必要がある事項を監査報告書で情報として記載するものであるため、保証業務である財務諸表監査における意見の表明と明確に区分することが適切と考えられるため。

問2

 本問において、債務超過にあるA社は、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在する場合であって、経営者が当該事象又は状況を解消し又は改善するための対応をしてもなお、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められると考えられる。
 そこで監査人は、当該重要な疑義に関する事項を強調事項として追記することによって、財務諸表の利用者である投資家等の利害関係者の判断に資するものと判断したためである。

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問題5

 本問における主力金融機関におけるA社に対する債務免除は、決算日後に発生した事象であり翌事業年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼすため、開示後発事象に該当する。監査人は当該後発事象が適切に注記されているかどうかの検討を実施する。また、財務諸表に適切な注記が行われた重要な開示後発事象に関して、その内容を監査報告書に追記情報として記載するかどうかも検討する必要がある。

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第2問

問題1

 監査実施の過程において、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別した場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、適切な階層の経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならない。
 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合や、追加的な監査手続を実施してもなお十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑いがより強くなることから、これを不正による重要な虚偽の表示の疑義と扱わなければならない。

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問題2

 「立会」の実施時期:より強い証明力の監査証拠を入手するため、立会の実施時期が従来において2月末での実施であったところ3月末に実施したい旨、会社に申し入れるとともに3月末に立会実施できるよう、会社に要請する。以上のように監査計画を修正した。

 「立会」の実施範囲:本問において、実地棚卸前に、一時的にQ倉庫の製品をP倉庫に移動して棚卸資産の数量を水増しされ、監査人が立会によって得られる心証が正しいものとはならないおそれが生じる。したがって、P倉庫のみだけでなく、Q倉庫についても立会を実施するよう監査手続の範囲を広げるとともに、在庫移動のリスクに対応するため、監査要員を増加して同時に立会を実施する。また、R倉庫を利用した不正のリスクも想定し、A工場内すべての倉庫で立会を実施することまで想定した監査計画に修正した。

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問題3
問1

 伝達:監査人は、監査の実施において不正又は法令に違反する重大な事実を発見した場合には適切な階層の経営者、取締役会及び監査役又は監査委員会に報告して適切な対応を求めるとともに、内部統制の有効性に及ぼす影響の程度について検討しなければならない。

 重要性:財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないようにするために、容認可能な重要性の基準値がより小さくなるよう改訂し、経営者の不正に対応して、より適合性が高く、証明力の強い監査証拠を入手することにより、十分かつ適切な監査証拠を入手する。

 未発見の虚偽の表示:不正が単独で発生するよりも複数の状況において発生している可能性があるため、他の財務諸表項目に及ぼす影響の程度について、職業的懐疑心を高めるとともに、追加的な監査手続を実施を検討する。

問2

 監査人Xは、A工場長の行った不正に社長も関与している可能性があると判断した場合、そのことを取締役の職務の執行を監査する監査役や監査委員会に報告するとともに、監査を完了するため必要となる監査手続の種類,時期及び範囲についても協議しなければならない。
 監査人は、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合に、監査役や監査委員会と連携することが不正に対して有効であるからである。

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問題4

 重要性の判断:経営者は、内部統制の不備が開示すべき重要な不備に該当するか判断する際には、 金額的な面及び質的な面の双方について検討を行うが、当該水増し金額は税引き前利益の5%を上回っており、金額的に重要であると考えられる。
 したがって監査人は、経営者が、開示すべき重要な不備があるとした評価結果を適正であると判断したため、無限定適正意見を表明したと考えられる。

 是正処置の実施時期:
 本問において、4月下旬に甲社は不正を認め、棚卸資産1,000百万円の水増し計上を修正した。
 経営者の行った内部統制の不備に係る是正処置の実施時期も、期末日後であると考えられ、開示すべき重要な不備があるとした経営者の評価結果は適正であり、期末日後に実施した是正処置を、適切に内部統制報告書に記載していると判断したため、無限定適正意見を表明した。

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上記解答について

※上記解答はクレアール会計士講座が独自に作成したものであり、「公認会計士・監査審査会」が公式に発表したものではございません。ご理解のうえ、ご利用下さい。

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